décadence dance

映画の感想や解説を主に、音楽や生活についても書きます。

リコリス・ピザ / 君も僕を忘れないだろう?(*ネタバレなし感想)

(原題:Licorice Pizza / 2021年製作 / 133分 / ポール・トーマス・アンダーソン監督 / アメリカ)

ポール・トーマス・アンダーソン(以降:PTA)は大好きな監督の1人だ。「ザ・マスター」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」などの重厚な作品から、「ブギー・ナイツ」や「マグノリア」のような群像劇まで、とにかく人間を描くことが上手い人だと思っている。私は特に「パンチドランク・ラブ」がオールタイムベスト級にお気に入りで、ある男の人生のスリリングさ、不安定さ、カオスさ、そしてそこにスパイスかのように偶然加わる恋のロマンチックさを、時にはシリアスに、そして時にはファンタジックな映像を多用することで表現しきったとても完成度の高い作品だと思っている。PTAの脚本はタランティーノもよく使う手法の事実とフィクションを組み合わせた形式のものが多く、そこで描き上げる人間模様、ひいては人生賛歌とも言うべき細部にまで手の込んだ演出が見事だ。
新作の「リコリス・ピザ」も例に漏れず、PTAの傑作の1本だと言えるだろう。

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ライアン・レイノルズの出演作を一気見!(サブスク限定) - その②(ペーパーマン / ヒットマンズ・ボディーガード / あなたは私の婿になる / [リミット] / ライフ / ゴースト・エージェント/R.I.P.D. / 6アンダーグラウンド / 黄金のアデーレ 名画の帰還)

前回の続きです。一部修行の気持ちで一気に鑑賞したよー。愚痴に近い酷評感想もあるので注意。記事の最後に今回紹介した映画のおすすめランキング書いてます。

 

 

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Swallow/スワロウ / 私の身体は誰のもの?(*ネタバレあり感想)

(原題:Swallow / 2019年製作 / 95分 / カーロ・ミラベラ=デイビス監督 / フランス、アメリ

ガール・オン・ザ・トレイン」「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」のヘイリー・ベネットが異物を飲み込むことで自分を取り戻していく主婦を演じるスリラー。ニューヨーク郊外の邸宅で、誰もがうらやむような暮らしを手に入れたハンター。しかし、まともに話を聞いてくれない夫や、彼女を蔑ろにする義父母の存在など、彼女を取り巻く日常は孤独で息苦しいものだった。そんな中、ハンターの妊娠が発覚し、夫と義父母は待望の第一子に歓喜の声をあげるが、ハンターの孤独はこれまで以上に深くなっていった。ある日、ふとしたことからガラス玉を飲み込みたいという衝動にかられたハンターは、ガラス玉を口に入れて飲み込んでしまう。そこでハンターが痛みとともに感じたのは、得も言われぬ充足感と快楽だった。異物を飲み込むことに多幸感を抱くようになったハンターは、さらなる危険なものを飲み込みたい欲望にかられていく。

Swallow スワロウ : 作品情報 - 映画.com

主人公ハンターは妊娠をきっかけに異食症という摂食障害を患う。旦那とその家族との食事中に話を阻害された際にグラスに入った氷を飲み込み、その快感を知ったことがきっかけだ。それから彼女は金属製の押しピンや電池など危険なものを飲み込み、排泄するようになる。排泄時に彼女はその異物を取り出し、トロフィーかのように化粧台に並べていく。これは疑似的な出産でありながら、痛みや苦しみを伴う自傷行為ともいえるだろう。以前から抑圧と孤独を感じていた様子の彼女。妊娠を報告した途端、彼女の旦那リッチーとその家族は、優しくはありつつもどこか不気味に、彼女の目ではなくお腹のあたりばかりを見るよう感じで、彼女がまるで後継ぎを産むための道具かのように接するようになる。何不自由のない生活を送っている彼女だが、自分の体が他人の欲望を叶えるためだけに存在しているように感じ、私の身体とこの痛みは私だけのものだと思うために異食症による自傷行為を重ねていたのではないだろうか。
作品の前半は彼女の異食症をスリリングに描き、次はどんな危険なものを飲み込むのだろうか、彼女がそれを原因に命を落としてしまうのではないか…と落ち着かない気持ちにさせる。しかし中盤の彼女の出自に関わるある告白をきっかけに物語は思わぬ展開を見せる。

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ライアン・レイノルズの出演作を一気見!(サブスク限定) - その①(フリー・ガイ / アダム&アダム / レッド・ノーティス / デッドプール1&2 / ワイルド・ギャンブル / グリーン・ランタン)

ここ5~6年ほど、好きな海外俳優を聞かれたらアダム・ドライバーロバート・パティンソンと答えるのが定番になっている。(女優に関しては多すぎて特別好きな人を挙げるのが難しい)この2人はアート系のインディペンデント作品からみんな知っている大バジェットものなど、幅広い作品に出演しており、彼らの作品だけ追っていれば最近の海外映画の流れを追える上、ハズレが無いので推している。

最近また1人好きな俳優が増えた。ライアン・レイノルズだ。もちろん以前から存在は知っていたが、Disney+で鑑賞した「フリーガイ」が大変大変素晴らしく、調べたところ、彼が脚本にも関わっているというではないか!もしや天才か?と思い、サブスク(Disney+、NetflixAmazon Prime)で鑑賞できる彼の出演作を片っ端から観ることを決意。感想を書きまとめていくことにした。

※私が鑑賞した順です。

 

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ハッチング -孵化- / 私が育てたの(*ネタバレあり感想)

(原題:Pahanhautoja / 2021年製作 / 91分 / ハンナ・ベルクホルム監督 / フィンランド

あらすじ:長女が見つけた謎の卵の孵化をきっかけに起こる恐ろしい事件により、家族の真の姿が浮き彫りになっていく様を描いたフィンランド製ホラー。北欧フィンランドで家族と暮らす12歳の少女ティンヤ。完璧で幸せな家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすため、すべてを我慢し自分を抑えるようになった彼女は、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。ティンヤが家族には内緒で、自分のベッドで温め続けた卵は、やがて大きくなり、遂には孵化する。卵から生まれた「それ」は、幸福に見える家族の仮面を剥ぎ取っていく。

ハッチング 孵化 : 作品情報 - 映画.com

フィンランド発のホラー映画。毒親に抑圧された少女が反旗を翻す「キャリー」的な物語かと思いきや、いい意味で期待を裏切られた。北欧のホラーと聞き、なんとなくお洒落そうな、心理描写が主に描かれそうな、ヨルゴス・ランティモスの「籠の中の乙女」ような作品を期待していたら、完全にデヴィッド・クローネンバーグ系譜にあるホラー映画で、模範的で美しい家族内に混入する"汚物"*1 をはっきり画面に映す。

冒頭10分ほど、Francfranc的な可愛くて綺麗なインテリアに包まれた部屋にカラスが侵入し、ガラスの花瓶や小瓶、シャンデリア、テーブルなどを破壊していくシーンは、美しく理想的に見える家族がいかに脆いものかを象徴的に描いており、これから起こる悲劇を示唆するに十分なシークエンスで一気に引き込まれた。

母親を発端に起こる子供の悲劇としてはアリ・アスター「ヘレディタリー」、ドッペルゲンガーものとしてはジョーダン・ピール「アス」も思い起こされ、しっかりジャンルとしてのホラーの時流に乗っている映画であることは否めないが、この作品独自の現代的な要素の一つとして、母親がYouTuberであり、理想の家族の姿を公開する事に固執している事が挙げられるだろう。しかし少し不思議なのは、彼女のチャンネルにはどれくらいの登録者がいるのか、果たしてそれでどれほどの広告収入を得ているのかなどは全く語られないことだ。この辺りは世間に理想を公開しつつも本当の意味では世間を気にしておらず*2、自分が維持する理想の家庭像をアピールする事自体は、あくまで自己愛を深める為であるからだと言えるだろう。

もう一つのこの映画独自の要素としては、母親の不倫相手、テロが主人公ティンヤの良き理解者であることだ。母親の不倫相手で、ボロボロな屋敷に暮らしており、従来の作品であればティンヤを邪魔者扱いし加害するようなキャラクターであることが予想されるが、本作では唯一、ティンヤに起こっている異常や母親からの抑圧に気づき、寄り添う存在として描かれ、この作品の美点として存在する。それゆえ、テロにさえ疎まれてしまったティンヤがアッリを攻撃するようになるのは納得だ。

オーディションから選出されたというティンヤ役のシーリ・ソラリンナの演技が素晴らしい。特に母親から「恋をしているの」という「なぜ子供にそんな話を聞かせるのか?」という相談を始めた際の、母親の機嫌を損ねないように笑顔を作りながらも、それでもどこか痛ましいような心情が滲んだ表情はこれ以上はないほどの演技だった。

*1:主人公ティンヤが孵化させたクリーチャー、アッリ

*2:ティンヤの体操大会での撮影中にティンヤのコーチに注意されても全く指示に従わず、気にしていない様子は象徴的に思えた

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docomoのプランを見直したら、昔憧れていたスターと交流できた話

先日docomoの名義変更手続きを行った。中学生で電車通学になったのをきっかけに携帯を契約してもらってから23歳の今までずっと母親の名義で契約していた。以前からahamoにプラン変更したいと思っていたのだが、ahamoにするには契約の名義と支払いの名義が同じでないといけないとのことで先延ばしにしていた。GWに実家に帰った際に母親と私、共に少し時間があった為、*1 「いつか本気で向き合う必要があるが面倒すぎることランキング」上位のdocomoショップでの名義変更へ踏み切った。

かつて「いつか本気で向き合う必要があるが面倒すぎることランキング」トップを独走していたマイナンバーカードのおかげで名義変更は思ったよりもスムーズに進んだ。しかしここでdocomoショップの店員さんによる営業が長々と続くことは予想済みだ。私がahamoにしたいというと、今はahamoよりU30ロング割というものの方がお得だという。本当ですか?営業への不信感をあからさまに露呈してしまう私。詳しく話を聞くと確かに半年はahamoより安くなるようだった。しかし、半年後にまた自力でahamoに契約変更をしなければならないと思うと面倒に感じ、やはり初めからahamoにしておいた方が楽なのではないかと断ろうと思っていたのだが、ここでdocomoのお姉さんから衝撃の発言が。

*1:docomoショップに電話をして尋ねたところ、現在の名義の人と新しく契約したい名義の人、両人が一緒に行くのが一番スムーズとのことだった。これは私の家庭環境も少なからず影響しており、母親と私の現在の戸籍が別で住所も異なること、また、私の携帯を契約してくれた時から、母親が下の名前を法的に変更しているという特殊境遇も素晴らしく作用している

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